聴神経腫瘍

聴神経腫瘍とは

 第8脳神経(聴神経)から発生する神経鞘腫です。神経線維を取り巻く神経鞘から発生する腫瘍です。聴神経と呼ばれる神経は聴力を司る蝸牛神経と平衡感覚を司る前庭神経から構成されており、前庭神経から発生することがほとんどです。内耳道内に発生して頭蓋内へ伸展し、大きくなると脳幹を圧迫するようになります。ほとんどの場合は良性腫瘍でありMRI等の画像により診断できます(病理学的な確定診断は摘出した組織による病理診断になります)。
 通常は片側にできますが、遺伝子が原因で発生するNF-2関連神経鞘腫症という病気では両側に発生することが多いです。
 聴神経腫瘍の手術は脳神経外科における手術の中でも最も難しい手術の一つとなります。術中モニタリングや剥離技術等、繊細な手術であるため経験豊富なチームが必要となります。最近では日本聴神経腫瘍研究会による認定医制度が発足していますので、参考にしていただければと思います。

症 状

 聴力障害、めまいで発症することが多いです。耳鼻咽喉科を受診しメニエール病と診断された患者さんの中に、この聴神経腫瘍が原因となっていることもあります。耳鼻咽喉科にてメニエール病と診断され治療を受けた患者さんは、急ぐ必要はありませんが落ち着いた段階で、一度頭部MRI検査を受けることをお勧めします。腫瘍が大きくなった場合は小脳、脳幹を圧迫し、ふらつき、バランス障害、嚥下障害、麻痺、意識障害、水頭症(歩行障害、痴呆症状、失禁)などが起きます。この場合は、早めの手術が必要となります。顔面麻痺にて発症することもありますが比較的稀です。

検 査

 CT、MRI、脳血管撮影などにより腫瘍の性状を詳細に検討し、症状や年齢を含め手術適応を検討します。症状の詳細に関しては聴力検査(純音聴力検査(聞こえる音の大きさの検査)、語音明瞭度検査(単語などを聞き分けられる程度の検査)など)、平衡感覚検査などを行います。

治 療

 患者さんの年齢、症状、病変の性状等を詳細に検討し、患者さんとよく相談し治療方法を決定します。治療方法としては ① 経過観察、② 放射線治療(多くはγナイフ)、③ 摘出術 となります。

① 経過観察

 病変が小さく(小脳、脳幹に接しない程度)、症状が無い場合は経過観察となります。病変が小さくても、若い患者さんで聴力障害が進行する場合は聴力温存を目指して摘出を行うこともありますが、確実に聴力温存することは難しいと考えています。聴力温存の可能性を高めるためには腫瘍の一部を残した摘出となることがあります。

② 放射線治療(γナイフ)

 放射線治療は、病変の増大を抑制できる可能性は高い治療となります。顔面神経障害が起きる可能性は非常に低く、ほとんどありません。聴力障害に関しては徐々に悪化することがありますが、摘出術に比べると温存率は高いです。放射線の悪い影響に関しては、頻度は明らかになっておらず極稀ではありますが病変が悪性に変化する可能性が言われており、実際に経験することはあります。しかしながら、自然経過と変わりがないという意見もあり結論は出ておりません。長期的な成績はまだはっきりしていないことや、放射線治療後の増大に対する手術治療は難易度が高くなることなどを考慮すると、若い患者さんにはお勧めはしていません。

③ 摘出術

 病変が大きく(小脳や脳幹を圧迫している場合)、小脳や脳幹の症状(ふらつき、バランス障害、嚥下障害、麻痺、意識障害、水頭症(歩行障害、痴呆症状、失禁)など)がある場合には、これらの症状を改善するために手術が必要となります。病変が小さくても、若い患者さんで聴力障害が進行する場合は聴力温存を目指して摘出を行うこともありますが、確実に聴力温存することは難しいと考えています。聴力温存の可能性を高めるためには腫瘍の一部を残した摘出となることがあります。手術による合併症としては聴力低下、顔面麻痺、小脳、脳幹症状等があります。手術を行う患者さんでは、もともと日常生活において有効な聴力は消失している患者さんがほとんどで、再発防止を重視することにより聴力は低下する可能性は高いです。顔面神経機能の温存に関しては、持続モニタリングを行っているため一時的に顔の動きが悪くなることはありますが永続的な麻痺の可能性は非常に低いと言えます。小脳、脳幹の障害に関しては、腫瘍が非常に大きい場合には、運動のバランスや歩行障害、ひどい場合は重篤な後遺症が起きるとの報告もありますが、非常に稀です。
 手術の方法は、耳の後方にC字やくの字状の皮膚切開を行い、後頭蓋窩の開頭を行い、小脳の外側から腫瘍に到達し摘出します。この際に、腫瘍の発生部位とされる内耳道の奥まで確実に観察、摘出するために内耳道後方の壁をドリルにて大きく開放します。再発の可能性を下げるためにはこの内耳道後壁の大きな開放が重要な手技の一つと考えております。術中に顔面神経の持続モニタリング(1秒に一度顔面神経を刺激して、顔の筋肉(前頭筋、眼輪筋、口輪筋)の動きを確認しながら腫瘍の摘出を行い、顔面神経の機能的な温存を行う)や、必要時は聴神経の機能のモニタリング(ABRというモニタリングで蝸牛神経の反応を確認する)を行います。

 実際は、これらの治療方法の選択に関しては学会でも長い間議論されており現時点では確定したものは提唱されてはいません。近いうちにガイドラインが作成される可能性があり期待されていますが、現時点では患者さんと主治医との相談により選択していくこととなります。手術に関しては、術者の知識や経験、施設の設備、体制により結果は異なるため、十分に時間をかけて主治医と相談することをお勧めします。